9月から放送開始した平成仮面ライダーシリーズ19作目『仮面ライダービルド』。
今回は、2018年1月7日放送の『17話 ライダーウォーズ開戦』から2018年3月25日放送の『28話 天才がタンクでやってくる』までの第2章を振り返りたい。
今作は第2章に入ってから「東都vs北都」や「東都vs西都」の戦争を描いてきた。
『仮面ライダーシリーズ』で戦争を本筋でガッツリと扱うのは初めてだ。
では、日曜の朝に放送されている子供向け番組で、製作者側は戦争について何を伝えようとしたのか?
その答えをこの記事では模索したい。
記事に入る前に、一度「感情」と「理性」という用語の定義付けをしておきたい。
感情 (かんじょう・かんせい) の意味
ある状態や対象に対する主観的な価値づけ。「美しい」「感じが悪い」など対象に関するものと、「快い」「不満だ」など主体自身に関するものがある。また、一時的なものを情動、持続的なものを気分と呼び分ける場合もある。
— 三省堂 大辞林 より
理性 (りせい) の意味
感情におぼれずに、筋道を立てて物事を考え判断する能力。 「 -をはたらかせる」
— 三省堂 大辞林 より
理不尽な戦争
第2章の幕開けを飾った『17話 ライダーウォーズ開戦』では、冒頭から生々しい戦争の光景が映し出された。
スマッシュやガーディアンに攻撃される兵士たち。
戦争の影響を受け、混乱状態にある一般市民たち。
それまでの『仮面ライダービルド』の雰囲気とは打って変わり、「戦争」を日曜朝の番組でダイレクトに描こうとする制作側姿勢が伝わってきた。
特に2017年から2018年前半にかけて、北朝鮮のミサイル関連のニュースが毎日のように流れ、Jアラートが鳴り、日本にもミサイルが飛来する可能性が出てきた。
太平洋戦争を経験していない我々の世代にとっても「戦争」という教科書の中での出来事が徐々に現実味を帯びてきた。
だからこそ、このタイミングで、平成仮面ライダーシリーズで戦争を描くことに意味があったのだと思う。
この戦争は、多治見首相が権力を手に入れたいという利己的な理由によって起こってしまった。
言い換えると、多治見首相はパンドラボックスの光の影響で好戦的な気質が剥き出しになった、つまり、「負の感情」である「支配欲」が増幅されてしまったことがきっかけだ。
のちに漁夫の利を狙って参戦した西都の御堂首相も、国のリーダーになりたいと明言しており、同じく「支配欲」に燃える。
これまでの描写では、東都の人々が北都の人々を憎む描写などもなかったし、その逆もなかったため、恐らくトップの政治家たち以外は誰もこの戦争を望んでいないだろう。
寧ろ、スカイウォールの惨劇のせいで国がある日突然分断されてしまったため、離れ離れの生活を強いられた家族も少なくないだろう。
そのような人たちは、恐らく国の再統一を望んでいたはずだ。
この戦争は一般市民や巻き込まれた人々たちにとっては非常に理不尽なものだ。
そしてこの戦争が勃発していなかったら、仮面ライダーたちも別の生活を送れていたのかもしれないと考えると、尚更戦争の意義が問われる。
兵器の仮面ライダー
第2章で戦争が勃発すると、仮面ライダーたちは政府によって「軍事兵器」になることを強いられる。
一方で、仮面ライダーたちには意志があるため、その意志がどのような形で戦争に影響を与えるのかが大きなテーマとなった。
3つの国に分かれて、それぞれの国が自分が強くなろうとして仮面ライダーを兵器として奪い合う、「仮面ライダーは兵器である」というところ。ただその兵器自身は正義の心をもっているのでどう転ぶか分からない。そういった意味では、今だからこそ考えるべきテーマだという気はしますが、考え方を押し付けるつもりはありません。
— さあ、新しい「仮面ライダー」を始めようか - 東映・大森Pが語るエグゼイドとビルドの"二か年計画" (5) いま、この社会で仮面ライダーを作るということ | マイナビニュース
科学技術は、使用者の意志次第で「正義」と「悪」のどちらにも転ぶことができる。
このようなテーマは、過去の仮面ライダーシリーズでも割と触れられてきた。
代表的なのは、『仮面ライダーW』のフィリップの次の問いだ。
フィリップ「拳銃を作ってる工場の人間は犯罪者か?」
(『仮面ライダー×仮面ライダーW&ディケイド MOVIE大戦2010』より)
拳銃を作っている工場の人間は犯罪者ではなく、拳銃を犯罪のために用いている人が犯罪者だ。
「悪の心」を持つ人が利用すると、強盗や人殺しのためのものとなってしまう。
一方で、「正義の心」を持つ人が利用すると、人助けのためにも使える。
よって、大切なのは「拳銃が悪か」ではなく、「その拳銃を誰がどのように使うか」について議論することだ。
今作では、ライダーシステムはそれぞれの国の首相の利己的な「支配欲」を満たすため戦争で戦う「戦闘兵器」として起用された。
だが、ライダーシステムを利用する人たちにはそれぞれの想いがある。
戦兎は、東都の街を守り、戦争を終わらせるために戦いたい。
龍我は、自分が信じ、自分を信じてくれた戦兎を助けるために戦いたい。
一海は、北都の仲間のために戦いたい。
そして、幻徳は、自分の野心のために戦いたい。
「正の感情」を持って戦っているライダーもいるのだから、「ライダーシステムが悪」と単純に決めつけるわけにはいかない。
戦兎も、ライダーシステムは平気ではなく、正義のためにあると考えている。
しかし、「正の感情」に「破壊衝動」などの「負の感情」が伴ってしまったら、戦闘兵器になりかねない。
使用者の好戦的な気質が掻き立てられるスクラッシュドライバーや、使用すると理性を失ってしまうハザードトリガーは、そのような状況を作る恐れがある。
「負の感情」や「理性の欠如」の危うさもしっかりと描写しているのが今作の第2章の大きな魅力の一つではなかろうか。
「正義のヒーロー」桐生戦兎
桐生戦兎は、かなり理性的な人物で、「合理」や「道理」を重視する性格だ。
一方で、彼にも「感情」はしっかりと備わっていて、「正の感情」を手に入れるまでの過程については第1章でも取り上げられてきた。
戦兎は、「理性」と「感情」の狭間で揺れ動くことが多いが、「感情」が望む理想に近づくために、最終的には理性的判断を下す。
どのような現実を突きつけられても、決して妥協することなく「愛と平和」を追い求める、非常に魅力的な人物だと感じる。
それが第2章では特に顕著であったような気がする。
東都の街を守るために
氷室幻徳から「東都の兵器」として協力するように要請された戦兎は、「戦争に加担したくない」という感情から最初は兵器になることを拒否する。
これは、戦兎にしては珍しいことに、理性的判断ではなく、感情任せの判断だ。
戦兎には「ラブ&ピースのために戦いたい」という想いがあるが、「戦争」は「ラブ&ピース」とは相反するものだから、そのような考えに至ったのは短絡的ではあるが当然なのかもしれない。
しかし、東都の街が被害に遭い、美空が自責する様子を見て、戦争のせいで「ラブ&ピース」が失われることに気づく。
「ラブ&ピース」を取り戻すためには、東都を守り、戦争を終わらせる必要がある。
そして、「東都を守りたい」「戦争を終わらせたい」という「正の感情」に応えるためにビルドとして戦争で戦う、という理性的判断を下した。
戦兎は、「正の感情」が先行し、「理性」をはたらかせることでその感情に応えるための最適な方法を導き出そうとする人間であることを、この決断は表している。
第1クールの総評記事でも述べたが、私としては、正直もう少し戦兎が一般市民に寄り添う描写も観たかった。
というのも、これまでの話を観ていると、戦兎の「正の感情」にはあまり説得力がないからだ。
たしかに、nascitaの仲間を守る動機はあるが、一般市民を守る動機がそこまでないように思える。
「正の感情」に説得力を持たせるためには、やはり葛城巧殺害事件の関係者以外の一般市民との交流も第1章で描く必要があった気がする。
専守防衛論
敵の命を無慈悲に奪おうとする人たちがいる中で、戦兎には「敵も味方も誰も死なせない」という考えがある。
これは「ラブ&ピースのために戦いたい」という「正の感情」に基づく意志だ。
理性的な戦兎の意志なだけあって、道理に従って考えている。
そんな戦兎は、戦力はあくまでの自衛権の行使のためにあると考えるため、北都への侵略に反対し、自国の防衛に徹するべきだと考える。
この戦兎の主張は現在の日本の軍事戦略である「専守防衛」と同じだ。
専守防衛とは、相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢をいいます。
「専守防衛というのは、防衛上の必要からも相手国の基地を攻撃することなく、もっぱらわが国土及びその周辺において防衛を行うこと」
— 昭和47年10月31日 田中角栄内閣総理大臣の国会答弁より
憲法上の理由もあるかもしれないが、それ以上に、戦争に積極的に参加しない・できないように、日本は専守防衛に徹しているのだろう。
やはり戦争そのものが間違っているのだから、消極的な姿勢でい続けることは理想的だ。
しかし、敵も味方も誰も傷つけずに専守防衛を貫くことは現実的に考えると難しい。
(特に、核兵器が存在する現実世界で専守防衛は通用するのか、という議論は続いている。)
それでも、戦兎はその理想を徹底的に貫こうとする。
北都で鷲尾兄弟に捕らわれた黄羽を助けようとした際にも、戦兎は専守防衛に徹する。
ビルドの世界では「兵器」とみなされている仮面ライダーが北都に行くと、「侵略」とみなされてしまい、戦争が過激化する恐れがある。
よって、戦兎たちは黄羽や農家で囚われた人たちを助けに北都へ行くことはできない。
代わりに、北都市民である一海と赤羽が鷲尾兄弟を東都に連れてくると、戦兎たちには東都を「防衛」するという口実ができ、戦うことができる。
しかし、専守防衛に徹すると、国土が戦場となってしまう恐れがある。
鷲尾兄弟という未知数の敵を東都に誘導することによって、東都市民に被害が及ぶ可能性もあることを忘れてはならない。
結果的に東都の街に被害があったという描写が特になかったため、今回の戦兎の判断は正しかったのかもしれない。
しかし、その可能性についても言及はしてほしかった。
そのような不満点もあるものの、戦兎は自身の「正の感情」が求める理想を徹底的に追い求め、その理想へと近づくために「理性」的に行動を起こす人間であることを、この専守防衛の展開は上手いこと表していた。
「理性」の喪失
では、戦兎を「正義のヒーロー」たらしめる「正の感情」と「理性」の中の、「理性」がなくなってしまうとどうなるのか?
その問いに対して明確な答えを示したのが、ハザードトリガーだ。
これを使用してハザードフォームに変身すると、ビルドは「理性」を失ってしまい、目に映るものすべてを破壊してしまう。

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「負の感情」である「破壊衝動」は誰の中にも存在しているが、「理性」を備えているからこそ、それを抑えられている。
しかし、ハザードトリガーで変身した戦兎は、「理性」を失った状態であるため「破壊衝動」を抑えられなくなってしまい、「完全な戦闘兵器」と化してしまう。
その結果、「敵も味方も死なせない」という意志を持って戦っていた戦兎は、青羽の命を奪ってしまった。
この事件によって戦兎は、苦しみ、悲しみ、罪悪感、後悔、恐怖、絶望というような「負の感情」に支配されてしまったことで、理性的判断が下せなくなる。
そして、戦兎はビルドとして戦わなくなってしまう。
更には、理性的判断ができなくなったことから、普段ならばやらないようなこと (ブラッドスタークに助けを求めに行く、美空にビルドを消滅させるスイッチを押させようとする、など) を行ってしまう。
しかし、戦兎はビルドとして戦い続けないといけない。
氷室泰山は、東都市民がこれ以上傷つかないためにビルドに復帰してほしいことを求める。
万丈龍我は、戦兎の代わりに代表戦に出ようとしているが、クローズチャージに勝ち目はない。
挙句の果てには、ブラッドスタークまでもが、東都を守るためには戦い続けるしかないという過酷な真実をたたきつける。
「東都を守りたい」という自身の「正の感情」に応えるためには、ビルドとして戦い続けなければならないことに気づく。
そこで漸く理性的判断を下し、代表戦に出場することを決意。
戦争とは切っても切れない「殺人」を、「敵も味方も死なせない」と宣言していた主人公にやらせてしまうことにこそ意味があったと感じる。
理想を貫けなかった戦兎は、その現実を突きつけられて「負の感情」に支配されるものの、それでも「正の感情」に応えて理想を貫くために立ち上がり、理性的な判断を下す。
「理性」と「感情」の狭間で揺れ動き、理想を高く掲げる戦兎だからこそ、この試練には説得力があったし、その辛さに私たち視聴者も共感できたのだろう。
「ラブ&ピース」の理想
「ラブ&ピース」は、理想であり現実からは程遠いことを、戦兎自身も理解している。
「愛と平和」に反して人の命を奪ってしまった戦兎だからこそ、その「愛と平和」をもたらすことの難しさが分かるのだろう。
それでも、決して妥協することなく、理想に近づくために全力で行動するのが桐生戦兎という存在なのかもしれない。
それを象徴しているのが、フルフルラビットタンクボトルの開発だろう。
フルフルラビットタンクボトルは、「理性を失う」というハザードトリガーの欠点を補うためのアイテムだ。
理性のない戦闘兵器と化してしまう「現実」を変え、科学を「愛と平和」のために利用するという「理想」に近づくために開発したともいえるだろう。
「筋肉バカ」万丈龍我

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万丈龍我がかなり感情的な人間であることは、第1章からずっと描かれている。
クロースドラゴンが大脳辺縁系と連動するように設計されている。
大脳辺縁系は、脳の中でも「感情」を司る領域である*1。
様々な「感情」の中でも、「誰かを助けたい」という「感情」が芽生えないとクローズドラゴンは使えない。
感情的な龍我が、その「誰かを助けたい」という「正の感情」を手に入れるまでの過程が、ビルドの第1章と言えるだろう。
一方で、戦兎に「筋肉バカ」と揶揄されているように、龍我の「理性」に関してはまだ育成中とでも言えるだろう。
そんな龍我が理性的判断を下すことができるまで成長したのが第2章での龍我だと言えるだろう。
戦兎を助けるために
第2章に入ると、「自分を信じてくれた戦兎を助けたい」「戦兎の笑顔を見たい」という「正の感情」が芽生える。
これは、『仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL』で見つけた「自分が信じた、自分を信じてくれた人のために戦う」という意志につながっている。
第2章から使用しているスクラッシュドライバーで変身すると、好戦的な気質を掻き立てられ、「負の感情」である「破壊衝動」を増幅させられる。
そのため、「正の感情」と「負の感情」がリンクしてしまい、「自分を信じてくれた戦兎を助ける」ために北都に侵略することを躊躇しない。
積極防衛論
龍我は、専守防衛を主張する戦兎とは反対意見を持ち、東都の自滅を避けるために行う敵基地攻撃は正当防衛だと考える幻徳に賛同する。
そして、幻徳の言葉に乗せられて、龍我は東都の「正当防衛」のためだと信じ、北都に侵略してしまう。
龍我は、「戦兎を助けたい」という「正の感情」が「負の感情」とリンクしてしまった結果、感情的判断により敵基地攻撃を行うという手段を選んだ。
現実の日本では、国民を守るために敵基地攻撃も厭わない「積極防衛」という概念を提唱する、幻徳や龍我の考えに近い人たちも実際にはいる*2。
というのも、いざ戦争状態になると、専守防衛だと国土が戦場になるリスクも十分あり得るからだ。
現実的に考えると、自国を防衛したいのであれば専守防衛より敵基地攻撃の方が確実だ。
しかし、積極的に戦争に参加してしまうと、戦争が激化し、逆に大勢の命が奪われる危険性もある。
作中では、敵基地攻撃を主張していた幻徳と龍我が、「負の感情」が増幅された人たちとして描写されていたことには違和感を覚えた。
好戦的でなくても積極防衛を唱えている人たちも現実世界では存在するからだ。
今作の描写だと、「積極防衛を主張する人たちは好戦的だ」と捉えかねない。
とはいえ、たとえ「正の感情」があったとしても、それが「負の感情」とリンクしてしまうと戦争の過激化につながりかねない、ということを上手いこと描写していたように感じる。
龍我は目の前にある現実を変えるために「感情」的に行動する人間であるからこそ、北都へ侵略していってしまったのかもしれない。
「殻を破る」
そして、ビルドハザードフォームが青羽の命を奪ってしまった時に龍我に転機が訪れる。
そもそも、戦兎がハザードトリガーを使用してしまったのは、暴走する龍我を止めるためだったため、龍我は強い責任を感じてしまう。
そのような中、対北都の代表戦に出場した戦兎は、再びハザードトリガーを使ってしまい、理性を失って暴走してしまう。
これを予期していた戦兎は、ビルドを消滅させる装置をあらかじめ美空に渡していた。
更に、暴走したビルドは変身解除した一海に襲い掛かってしまう。
つまり、戦兎と一海の二人の命が同時に脅かされている。
そこで龍我が登場し、戦兎を止めようと喰らいつく。
戦兎を助けられるのは自分のみだと気づいた龍我はようやく「殻を破り」、スクラッシュドライバーの力を制御することに成功した。
ここでは「龍我を止めるためにハザードトリガーを使って暴走してしまった戦兎を、龍我がスクラッシュドライバーの力を制御することで止める」という構図ができあがっている。
自分がその悲惨な状況を間接的に作ってしまったからこそ、龍我の中では「戦兎を助けたい」という「正の感情」が増大したのだろう。
更に、「負の感情」を制御できなかった自分のせいで、「負の感情」を抑制できなくなってしまった戦兎が悲しむことになったため、自分の「負の感情」では自分の「正の感情」に応えられないことに気づくことができた。
つまり、この事件がきっかけで龍我は「理性」的に考えるようになった。
増幅された「正の感情」に応えるためには暴走しているビルドを何とか止める必要がある、という理性的な判断を下すことができた。
そして、「負の感情」である「破壊衝動」とも決別することができたのだろう。
良くも悪くも「感情」で動く仮面ライダーであった龍我にとって、殻を破ったことは大きな成長であったと感じる。
「心火を燃やす」猿渡一海

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第2章の幕開けと同時に、猿渡一海という北都の戦士が登場した。
仮面ライダービルドと仮面ライダークローズに続く「第三のライダー」的な立ち位置だ。
決め台詞である「心火を燃やしてぶっ潰す!」が表すように、一海も龍我と同様に、かなり感情的な人間だ。
一方で、意外な一面も徐々に明らかになったことで、途中から見方が大きく変わった人物でもある。
北都の仲間を守るために
勿論美空のファンであり、大好きなみーたんを前にするとただのドルヲタと化してしまう姿は普段の好戦的な様とはあまりにもかけ離れていて、非常に魅力的なキャラ設定だ。
しかし、やはり一海が戦争で戦っている理由が、猿渡一海という人物をより魅力的にしている。
一海は、戦兎や龍我とは異なり、戦争の兵器になることを自ら志願した。
自身が持っていた「俺たちの猿渡ファーム」は、スカイウォールの惨劇のせいで壊滅状態となってしまった。
そこで働いていた三羽ガラスなどの北都の仲間の生活の面倒を見るために、一海は政府の人体実験に協力した。
そのような一海には、戦争で戦う「覚悟」がある。
よって、「敵も味方も死なせない」という理想を掲げて戦う戦兎に反して、戦争に命懸けで挑み、殺し合いを厭わない。
北都が戦争で敗北した後も北都を守るために戦いたいという想いはブレず、北都を西都の攻撃から守るために戦兎たちと組む。
スクラッシュドライバーを長期的に使用してきたため、「負の感情」である「破壊衝動」が非常に増幅された状態にある。
「全然足りねぇな!」などのかなり好戦的な台詞を発していることからも分かる。
このようなことから、一海は「正の感情」と「負の感情」がリンクしている影響で、東都への侵略に加担したことが分かる。
そして、一海は覚悟のある相手と戦う際には非常に感情的になることも分かる。
感情的に戦う点は、同じくスクラッシュゼリーを使用して変身する龍我と共通している。
一方で、一般市民を戦争には巻き込まない、覚悟のない相手とは戦わない、という意志もある。
一海には意外と理性的な部分もあり、覚悟のない相手に対しては、感情を抑え込んで理性的判断を下すことが分かる。
恐らく、理性がなかったら、あれほど冷静に「敵の戦兎たちと組む」という決断はできなかっただろう。
また、三羽ガラスたちは基本的に感情的判断で動く人たちなので、その三人を理性的に抑える役割も担っていた。
理性的判断ができる点は、戦兎と共通している。
つまり、「正の感情」と「負の感情」がリンクした状態にありながらも、理性的判断もできる人間だ。
また、覚悟のある相手に対しては「感情」をぶつけ、覚悟のない相手に対しては「理性」をはたらかせる。
「感情」と「理性」を使い分けることができる唯一の登場人物である点では、非常に精神的には成熟しているのかもしれない。
勿論、「正の感情」と「負の感情」がリンクしてしまうことの恐ろしさは、グリスが戦う様を見ると一目瞭然だ。
「負の感情」があるからこそ、殺し合いを厭わないのだろう。
その辺がこれからどのように描かれていくのかは楽しみだ。
三羽ガラスの最期
一海の「戦う理由」であった「北都の仲間を守るため」が揺さぶられたのは、ともに戦ってきた三羽ガラスが亡くなった時だ。
青羽は、理性を失ってしまったビルドハザードフォームのキックによって消滅してしまう。
命が奪われる瞬間を見ていた赤羽と黄羽は、憎しみと怒りから戦兎に襲い掛かるものの、一海はその二人のことを止める。
また、一海は自責の念に駆られる戦兎を責めずに、青羽にも命を懸ける覚悟があったのだと伝える。
戦兎がハザードトリガーのせいで理性を失った状態でやってしまった行為だということを理解しているからだろう。
一海までもが感情的判断を下していたら、きっと変身解除した戦兎に全員で襲い掛かり、タコ殴りにでもしていただろう。
しかし、理性的判断ができる一海だからこそ、戦う覚悟のない戦兎に襲い掛かろうとする赤羽たちを止めたのだろう。
黄羽は、北都で鷲尾兄弟の人質となり、その後の交戦で鷲尾兄弟の一撃から一海を庇ったことで消滅してしまう。
この際、一海は憎しみや怒りという「負の感情」を胸に、鷲尾兄弟に襲い掛かり敵を討とうとする。
青羽の時には理性をはたらかせていた一海は、黄羽の時には非常に感情的になる。
それほど感情的になったのは、青羽の時の戦兎とは違い、鷲尾兄弟には「戦う覚悟」があったからだろう。
覚悟のある相手に対しては「感情」をぶつけ、覚悟のない相手に対しては「理性」をはたらかせる、という一海なりのポリシーを表すシーンだと感じる。
そして赤羽は、パンドラボックスを守ろうとした際に、ローグの必殺技を食らって消滅する。
三羽ガラスの三人が全員いなくなり、一海は独りになってしまう。
北都の仲間を守るために戦っていたのだから、一番身近で戦っていた仲間が目の前で亡くなってしまったのは、一海にとっては大きな悲しみであるはずに違いない。
それでも、一海は三羽ガラスの家族や仲間のために戦うことができる。
そして、一海は「仲間のありがたみ」を胸に、東都+北都vs西都の代表戦に出ることを決意。
鷲尾兄弟との戦いでも、怒りや復讐心という「負の感情」を抱いて戦うものの、鷲尾雷を変身解除させてからはギリギリのところで攻撃を止めて、「理性」をはたらかせる。
一海には、大切な仲間である三羽ガラスの死が試練として課された。
それでも「感情」と「理性」を使い分けることができる一海は、精神的成熟度がかなり高いともいえるだろう。
三羽ガラスの死と向き合う中で、我々視聴者にとっても猿渡一海という人物が一層魅力的に映し出されたと感じる。
「野心を抱く」氷室幻徳

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氷室幻徳は、スカイウォールの惨劇に居合わせて、パンドラボックスの光を浴びた人物だ。
つまり、幻徳も「負の感情」である「破壊衝動」や「支配欲」が増幅された状態にある。
第1章では、ファウストの幹部であるナイトローグとして暗躍していた。
そして、第2章で戦争が始まると、東都の首相代理として北都への侵略に加担する。
しかし、父親の氷室泰山に東都政府から追放されてしまう。
その後は、難波重工が開発した「クロコダイルクラックフルボトル」の力で「仮面ライダーローグ」になる。
そして、今度は西都側の仮面ライダーとして再び戦争に参加した。
因みに、幻徳が仮面ライダーローグになった経緯は、『仮面ライダービルド Blu-ray COLLECTION』に収録されているスピンオフ『ROGUE』で明かされている。

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第2章の総評なので、スピンオフで明かされたことについてはこの記事ではあえて言及せずに、テレビ本編で明かされたことのみに基づいて幻徳の想いについて考えていきたい。
強さを求めて
幻徳は、ただ強さを求めて仮面ライダーになった。
しかし、東都政府への復讐目的で仮面ライダーになったわけではなく、東都を倒すことで自らの手で日本をまとめたいという「野心」があったからなった。
そして、戦兎の「愛と平和」という「理想」を一蹴する。
「野心」は、私利私欲のために満たしたい望みのことを指すが、幻徳の中にある「支配欲」も「野心」だ。
その点では、私利私欲にとらわれず、「愛と平和」という「理想」のために戦う戦兎とは異なる。
野心 (やしん) の意味
現状よりもさらに高い権力・名誉・財力などを得ようとする心。ひそかにいだいている分をこえた望み。
— 三省堂 大辞林 より
「支配欲」も恐らくパンドラボックスの光の影響で「負の感情」が増幅されたことによって生じたものなのだろう。
つまり、幻徳は「負の感情」である「支配欲」と、同じく「負の感情」である「破壊衝動」がリンクした状態にある。
また、戦兎は多くのものを抱えすぎているため「覚悟」が足りないが、幻徳には失うものが何もないため「覚悟」がある。
だからこそ、「負の感情」によって生じた野心に応えるためにすべてを捨てて戦うことができるのだろう。
難波重工の洗脳教育
洗脳とは、「理性」を弱めて、都合のいいように「感情」を植え付けることを意味する、と私は考える。
難波重工では、身寄りのない子供たちを引き取って、将来的に戦争の道具となるように洗脳教育をしている。
第2章では、洗脳教育を施された「難波チルドレン」があらゆるところで暗躍していることが判明した。
東都首相補佐官秘書として潜んでいた科学者の内海成彰。
難波重工の「最終兵器」であるエンジンブロスとリモコンブロスに変身する鷲尾兄弟。
東都首相秘書として潜んでいたスパイの増沢。
そして、戦兎たちを監視するために送り出されたスパイの滝川紗羽。
鷲尾雷が「相手を倒すことが生き残る唯一の術」であったと発言していたことから分かる通り、難波チルドレンは全員、恐怖や破壊衝動などの「負の感情」を植え付けられている。
「破壊」を目的に難波重工によって「製造 (洗脳)」された兵器だと考えると、難波チルドレンは「守る」ことを目的に戦う戦兎たち仮面ライダーとは対極の存在であるともいえる。
しかし、ビルドたちの活躍をそばでずっと見てきた紗羽は、難波会長の洗脳から脱出することに成功する。
戦兎が開発したフルフルラビットタンクボトルのデータを渡すように難波会長から命令された際に、ラビットラビットのデータのみを渡すことで、ビルド逆転のチャンスを作った。
このような決断ができたのは、nascitaの生活の影響で紗羽は変わることができたからだろう。
nascitaで戦兎や美空と暮らしていくうちに、「家族の温もり=愛しさや幸福」という「正の感情」が初めて芽生える。
また、戦兎が愛と平和のために戦う姿を見ているうちに「理性」が育ち、善悪の判断ができるようになった。
「正の感情」が先行し、その感情に応えるために理性的判断を下すことができたことは、これまではただ難波会長に言われるがまま決断を下してきた紗羽にとっては大きな成長であったに違いない。
ライダーウォーズ
一般人までもがガーディアンやスマッシュに攻撃されていた無慈悲な状況が一変し、『18話 黄金のソルジャー』では猿渡一海は民間人を巻き込まない「ライダーvsライダー」の戦いを要求する。
これがきっかけで、「東都vs北都」の戦争は「兵器 (仮面ライダー) 同士の戦い」というライダーバトル的構造に変わる。
スカイウォールの性質をうまく利用した設定だとは思うし、予算内でやりくりしないといけないテレビ番組の方向性としては合理的だと思う。
血だらけの民間人を日曜の朝に放送されている子供向け番組に登場させるわけにはいかないので、 民間人を物理的には傷つけない戦争を表現したのは必然的であったと感じる。
一方で、今作は民間人に関する描写を決して放棄したわけではない。
戦兎や龍我、一海、三羽ガラスは戦争に巻き込まれた民間人を表している。
また、戦争のせいで避難所暮らしを強いられた民間人や、閑散とした街中の公園の描写なども要所要所にあった。
物理的な被害よりも、戦争が人々の「感情」に与える影響の描写がウェイトを占めていた印象だ。
「戦争」と聞けばどうしても、我々日本人は教科書で必ず学ぶであろう第二次世界大戦を連想する。
また、『ダンケルク』や『プライベート・ライアン』のような戦争映画によって構築された戦争に対するイメージもかなり強いだろう。
しかし、戦争の形も多様にあるため、戦争を描写するうえで「正解」はないと考える。
だから、私は今作が戦争をライダーウォーズという形に落とし込むという判断は間違っていなかったと考える。
戦争の勝敗を最終的には代表戦で決定してしまう展開にも賛否両論あった。
というのも、代表戦というまるでスポーツのような方法で勝敗を決めるのは非現実的だからだ。
代表戦の勝敗は降参か戦闘不能、ライダーシステムの解除によって決まるため、代表戦が始まると、戦争とは切っても切れない「殺人」が必要ではなくなる。
しかし、実際の戦争ではそのような「代表戦で決着をつけよう」という理性的判断を両者ができるとは思えない。
だから私は、被害を最小限に抑えようとする「代表戦」という方法で決着をつける、という理性的な提案を「負の感情」に支配されている北都や西都の首相が飲んだことに違和感を覚えた。
実は北都や西都の首相たちは完全に「負の感情」に支配されているわけではなく、「理性」もしっかりと残っていた、というような描写があったら、代表戦に至るまでの経緯に納得することができたのかもしれない。
一方で、代表戦は「敵も味方も誰も死なせない」と宣言した戦兎にとってはかなり理想的な決着のつけ方だったのではなかろうか。
代表戦で決着をつけることは、戦兎が青羽の命を奪ってしまったことで苦しんでいる間に、氷室泰山首相が北都政府に提案した。
よって、青羽の命を奪ってしまい、「敵も味方も誰も死なせない」という理想を貫けなかったことで苦しむ戦兎に、泰山が忖度したとも捉えることができる。
しかし、その理想を叶えるのは戦兎本人にしてほしかった。
戦兎が、青羽の命を奪ってしまった苦しみから立ち上がり、今度こそ理想を貫くために北都政府に代表戦を提案していたら、戦兎という人物の成長にもつながったと感じる。
私は、代表戦という決着方法にダメ出しをするつもりは決してない。
「敵も味方も誰も死なせない」戦争は理想的なのだから、それが実現するならそれに越したことはない。
また、代表戦は仮面ライダーたちが「感情」を互いにぶつける場として機能していたため、戦う彼らの「正の感情」や「負の感情」を我々視聴者が知る機会ともなった。
だからこそ、代表戦に至るまでの経緯についてはもう少ししっかりと描いてほしかった気がする。
結論
第2章に入ってから、「ビルドの戦争は非現実的だ!」という視聴者の声を耳にするようになった。
戦争の設定にはたしかに非現実的な要素が多かった。
「ライダーウォーズ」や「代表戦」などはおそらく現実ではあり得ない。
そもそも、今作では「兵器」の役割を担っていたライダーシステム自体存在しない。
これらの設定は、「戦争」という題材をニチアサでの放送に適した形に落とし込むために利用されたものだ。
一方で、戦争の中で生きる人々はかなりリアルだったと感じる。
というのも、『仮面ライダービルド』の第2章は、人間の「感情」と「理性」を中心に戦争を描いてきたからだ。
そして、そのようなリアルな人間から、戦争における様々な人間の行動と、それらがどのように戦争に影響を及ぼすかが分かった。
「破壊衝動」や「支配欲」という利己的な「負の感情」は戦争につながること。
「理性」を失うと、「感情」がコントロールできなくなり、結果的に破壊につながること。
「正の感情」があっても、それが「負の感情」とリンクしてしまったら対立や争いにつながること。
洗脳により「感情」や「理性」が思いのままに操られると、理性的判断が下せなくなること。
つまり、最適な行動のためには「正の感情」と「理性」の両方が必要であるということを、今作は伝えようとしたのではないか。
戦争は「破壊衝動」や「支配欲」という「負の感情」によって発生することもある。
しかし、戦兎や一海のように「誰かを守りたい (助けたい)」という「正の感情」によっても過激化し得る。
だからこそ、感情的判断は危険だ。
「正の感情」があったとしても、「理性」がなければ意味がない。
一度筋道を立てて考えることで、理性的判断を下すべきだ。
それが、「戦争」というものが現実味を帯びてきている2018年に生きる人々に求められる姿勢なのかもしれない。
二度の代表戦や、紗羽の二度目の裏切りなど、たしかに話の展開では「またか…」となる部分も多かった。
しかし、人の「感情」や「理性」を丁寧に描きながら、毎回魅せ方を変えてくれたため、飽きることなく楽しめた。
やはり、『仮面ライダービルド』の最大の魅力は「人間」であることを改めて感じた。
第3章でどのような結末を迎えるか楽しみだ。

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