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【感想】『祈りの幕が下りる時』で日本橋の“新参者”はどのような閉幕を迎えたか

私は東野圭吾氏の本が大好きだ。

意外性の多いミステリーをしっかりしているのは勿論だが、魅力的な犯人を創り出してくれるところが好きだ。

いつの間にか犯人に同情してしまう作品が多いのも、人物描写が非常に細かいからだろう。

ちなみに特に好きな作品は『白夜行』と『真夏の方程式』だ。

 

そんな東野圭吾氏のファンである私は勿論、2010年に放送されていたTBSドラマ『新参者』も観ていた。

日本橋に今すぐにでも行きたくなるようなロケ地の使い方に魅了されつつ、「人はなぜ嘘をつくのか?」を描いた重厚なヒューマンドラマな魅力的だった。

そしてあれから8年が経ち、遂に『新参者』シリーズが幕を下ろすことになった。

 

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今回は、こちらの映画が『新参者』の完結編としていかに素晴らしかったかについて、半ば興奮気味に感想や考察を語っていきたいと思う。 

 

ちなみに、『祈りの幕が下りる時』の原作本は未読であることを了承していただきたい。

祈りの幕が下りる時 (講談社文庫)

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『祈りの幕が下りる時』のネタバレを含みます!!

 

 

二つの親子愛

浅居博美と、父である浅居忠雄との間の親子愛が、今回の事件の発端になっている。

加賀恭一郎と、父である加賀隆正、母である田島百合子との間の親子愛も、また今回の物語の大きな柱となっている。

その二つの親子には意外と重なる部分が多いことに注目していきたい。

少し境遇が違えば、浅居家親子も違う生き方をできたのかもしれない、という悲劇としてみることもできる。

そしてそのような重なる部分があるからこそ、犯罪者側の浅居家の心理を描くことにより加賀家の心理も同時並行に描くことに成功しているのが印象的だ。

 

子を見守る父親

浅居博美の父親、浅居忠雄は「存在を消してでも子の成長を見守る」父親として描かれる

借金取りに追われて当時14歳だった博美と父の忠雄が二人で夜逃げした際に、石川県で遭遇した原発作業員の横山一俊を博美は誤って箸で命を奪ってしてしまう。

そして、博美が借金取りから解放されて、横山一俊の殺害の罪を問われないようにするために、忠雄はその日から「横山一俊」になり、二人は以後見ず知らずの他人として暮らすことになった。

娘の博美の幸せを守るために、忠雄は自身のアイデンティティを捨てる

また、隠し通していた過去がバレかけた際に、口封じのために博美の恋人である苗村誠三や博美の幼馴染である押谷道子の命を奪う。

遂には罪を背負うために、自分が一番恐れていた「焼死」を選んで自害しようとする。

娘のために亡くなることすら恐れない、まさに献身的な親として描かれている。

 

そんな忠雄は、加賀恭一郎の父である加賀隆正と重なる部分がある。 

妻の田島百合子が蒸発して以来息子の恭一郎とは複雑な関係にあった。

しかし、最後には恭一郎のその後の人生をあの世から眺められるなら肉体を失ってもよい、ということを担当看護師の金森に言っていたことが判明。

隆正もまた「存在を消してでも子を見守る」父として描かれている

 

この二人の父親は、子を愛しているため「存在を消してでも子を見守る」親であるという共通点がある。

そして、自身の父が実はそのように思っていてくれたと加賀刑事が知ったのが、事件解決の鍵になったのは上手いと感じた。

これまで『新参者』本編や『赤い指』でも加賀刑事と父との間の確執が描かれていたが、その確執に漸く決着がついて、『新参者』シリーズの終わり方としては非常にすっきりしていたのではなかろうか。

 

会えない親子

浅居博美は、重たい過去を持つため目立つべきでないのにもかかわらず、女優を志す。

夜遊び続きで家のお金を使い込んだ挙句に蒸発し、博美と忠雄が借金取りに追われる毎日を送っていた過去。

借金取りが家に出入りしていたことで学校で虐められていた過去。

横山の奪ってしまった過去。

嫌いな養護施設に入れられていた過去。

博美は違う人生が歩みたくて、過去のアイデンティティからの脱却を目指したといえるだろう。

そしてそれが叶い、博美は輝かしい夢を追いかけて、女優や舞台演出家としても成功。

過去からは無事脱却したものの、父の忠雄が唯一の過去とのつながりとして残っていたのかもしれない。

しかし、そんな父とは月に一度日本橋で電話越しに会話をすることでしか会えないのがあまりにも哀しすぎる。

最終的に博美は父の望みに従って命を奪ってしまい、二度と会えない人となってしまったのも悲劇的だ

 

そして面白いことで、ここにも恭一郎と隆正との間の関係と重なる部分がある。

というのも、今作や『赤い指』であったように、隆正は百合子の鬱病に気づかずに蒸発させてしまったことを後悔している。

そのため、隆正は恭一郎に、自身の最後は看取らないように願う。

 

よって、恭一郎は父の望みに従って、父とは最後に言葉を交わすことないまま二度と会えない人なってしまった

 

程度は違うものの、浅居博美と加賀恭一郎の二人は「父親とは会えない」という境遇に置かれていた点では似ている。

そして浅居家親子は「(人の命を奪ってしまった) 罪から逃れる」ために会えない一方で、加賀家は「(百合子を一人にしてしまった) 罪と向き合う」ために会えないのも対比になっているのが面白い。

 

蒸発した母親

恭一郎の母である田島百合子と、博美の母である浅居厚子が対照的な性格であることにも注目すべきだ。

 

田島百合子は、恭一郎を育てている際に義両親の嫌がらせに遭い、鬱病になる。

ある日無意識のうちに包丁を握っていた自分に気づき、百合子は恭一郎に危害を加えないようにと家を出て蒸発してしまった

その後も、恭一郎が載っている剣道雑誌を見て息子が剣道を続けていることを知り、涙する様子などから、息子想いの母親が見えてくる。

 

一方で、浅居厚子は忠雄名義で多額の借金をして、夜遊びに繰り出す毎日を続けていた。

そんな厚子は、男に貢ぎたいという自己中心的な理由で家族を捨てて、残された忠雄と博美に全てを押し付けて蒸発してしまった

老人ホームで名前を明かさず「201さん」と呼ばれている様子から見て取れるように、厚子は自身の過去のアイデンティティを否定しているようなのでもしかしたら心のどこかに罪の意識があったのかもしれない。

 

百合子は、息子のことを想って家を出ていった一方で、厚子は自分勝手な欲望を満たす為だけに家族のことを捨ててしまう。

恭一郎も博美も母親が蒸発しているものの、二人の蒸発の理由が正反対だ。

 

だからこそ「マザコン」の恭一郎は母親の幸せを祈って日本橋で綿部を探し続けた一方で、博美は再会した厚子を精神的に追い詰めるのだろう。

博美が201号室で母親に放った辛辣な言葉は今でも頭に残っているし、あのシーンの松嶋菜々子さんの演技が個人的には一番好きだった。

 

親の幸せを祈って

子が、親の幸せを望んでいるのは両家族で共通している。

 

百合子が仙台で一人で暮らしているときに、「綿部俊一」なる人物と恋人関係にあった。

その綿部が実は浅居忠雄であったため、博美の父と恭一郎の母が恋人関係にあったのだ。

 

百合子が亡くなった後、加賀恭一郎は、綿部と幸せに暮らしていたかどうかを知るために日本橋署に赴任し、以後日本橋に居座る。

「マザコン」の恭一郎はかなりの母親想いなので、母親が人生の最期をどのように過ごしていたのかが知りたかったのだろう。

 

浅居博美も、父親の恋人である百合子の息子に会いたくて、恭一郎の剣道教室を訪れる。

博美も、父親がどのような人に恋をしていて、どのように過ごしていたのかを、その息子と接触することで知りたかったのだろう。

 

加賀刑事も博美も、この事件を通して両親が幸せに過ごしていたことを確認できたからこそ、無事「祈りの幕」を下ろすことができたのではなかろうか

 

 

『曽根崎心中』とのつながり

浅居博美が劇中で舞台演出をした『曽根崎心中』と今作には共通点が割とあることに注目したい。

あらすじは以下の通りだ。

大坂の醤油商「平野屋」の手代・徳兵衛は、色茶屋「天満屋」の遊女お初の馴染客であり、客と遊女の関係を超えた相思相愛の仲でもあった。

いずれお初を身請けし、妻に迎えようと考えている徳兵衛だったが、徳兵衛の叔父でもある平野屋の主人は二人の関係を知りつつ、徳兵衛を見込むあまり、姪と祝言を上げさせ、自身の跡取りとすることを画策。徳兵衛の継母に結納金を握らせ、強引に話を進めようとする。

しかし頑なに固辞する徳兵衛に、平野屋の主人は「ならば金を返せ。二度と大坂の地は踏ませない」と勘当を言い渡す。やっとのことで継母から金を取り返した徳兵衛だが、どうしても金が要るという友人の油屋・九平次に、3日限りの約束で平野屋への返済用の金を貸してしまう。

期日になっても九平次から返済は無く、それどころか九平次は公衆の面前で徳兵衛を詐欺師呼ばわりした挙句、五人がかりで袋叩きにして面目を失わせてしまう。もはや徳兵衛は死んで身の証を立てるほか、名誉を回復する手段はない。

その夜、天満屋を訪れた徳兵衛に、覚悟を察したお初。二人は真夜中に手を取り合って露天神の森へ向かった……。

 

— 杉本文楽 曾根崎心中 | ストーリー

 

『曽根崎心中』は、遊女のお初と醤油商徳兵衛という、二人の恋人同士の話だ。

この物語と、浅居博美が幼い頃にした経験に重なる部分がある。

 

徳兵衛は友達の九平次に金を貸すが、彼に裏切られて詐欺師呼ばわりされる。

その九平次が、自分勝手な欲望を満たすために忠雄に借金を負わせた浅居厚子と重なる。

 

そしてそのせいで徳兵衛が五人がかりで袋叩きにされるのも、借金取りに暴行される忠雄と重なる。

また、真夜中に露天神の森へ向かうお初と徳兵衛は、夜逃げをする博美と忠雄とみてもいいだろう。

 

『曽根崎心中』では、互いに愛するがあまりにお初と徳兵衛は心中してしまう。

博美が供述を終えた後、舞台で演じられていたこの場面がガラスに反射していたため、この場面が印象に残っている人は多いだろう。

今作の劇中では博美と忠雄は心中しないが、重ねられる場面もしっかりとある。

夜逃げをした際に石川県の崖から飛び降りて命を絶とうとしていたが、この場面で心中を試みていたと考えることもできる。

また、トンネルの中で二人が別々の人生を歩むことを決意したシーンは、二人の「アイデンティティの死」が起こる心中の瞬間だととらえることもできるが、ここでも実際に死ぬことはない。

だが結局二人は心中をしないまま別人として生き、互いに支え合って暮らしていく。

 

しかし、皮肉なことに『異聞・曽根崎心中』の公演中に忠雄が自害を試みてしまう。

忠雄は命を絶とうとするものの、以前忠雄が焼死は嫌だと言っていたことを思い出し、博美は忠雄の命を代わりに奪う。

明治座の公演の成功という博美の幸せを見届けた忠雄が、祈っていた通りの閉幕を叶えることができた場面だ。

これは父を愛するために博美がしてあげたことだが、博美自身は自害していないため心中にはなっていない。

『曽根崎心中』で起こった心中は浅居家親子には起きず、忠雄一人が娘のために自害したところがかなり献身的な家族愛を表していて悲劇的だ。

 

そう考えると、浅居博美 (=お初) と浅居忠雄 (=徳兵衛) との間の親子愛と重なるような舞台を博美が明治座で手掛ける初公演として選んだのも納得ができるし、切なさが尚更増してくる。

 

福澤監督の力

ところで、私が過去の東野圭吾氏の作品の映像化の中で最も好きなのは、原作から大幅に改変されたことで有名な、2004年の綾瀬はるかさんと山田孝之さん主演の『白夜行』だ。

私は、必ずしも忠実に作品を映像化する必要はないと思っていて、寧ろ必要に応じて改変はしてほしいと考えている。

ドラマならまだしも、二時間の映画で一冊の本を描き切れるわけがないので、手を加えるのは仕方ないと思う。

 

先述した通り私は原作本を読んでいないが、あらすじなどを読んだ限りでは割と忠実に再現している印象だ。

しかし、今作は非常にきれいに映像化が実現していた印象だ。

 

 

偽名を使っている人物がいて、割と複雑な各登場人物の関係性を把握するのが困難だったのは事実だ。

「横山」「綿部」「越川」とその都度名前を覚えようとしても情報量が多すぎて疲れてしまったかま、やはり二時間映画で一気に情報を詰め込もうとするとどうしても生じてしまう弊害なのかもしれない。

しかし、相関図を度々見せ、立ち止まって考える時間を与えてくれたことで頭の中の整理がしやすかった

 

 

また、演出からも細かな拘りが見えてきて嬉しかった。

 

例えば、14歳の博美が無理やり青いワゴンに連れ込まれて、箸で誤って横山の命を奪ってしまうシーン。

博美がワゴンに入ってから何が起きたのかは我々には見せられない。

青いワゴンの全体を外から撮影し、15秒間くらいの沈黙の中でカメラを若干ズームアウトさせてるだけだ。

しかし、たった15秒程度のこの場面で、車の中で博美の時間が止まっていることが伝わってくるのは巧みな演出に感じた。

たかが15秒だが、沈黙と、静止画のような「静か」な映像を組み合わせるからこそ我々観客にとっては意外と長く感じられる

 

真っ赤な部屋で対峙する加賀刑事と博美のシーンには緊張感があると同時に、どこか不気味さがあった

「養護施設を思い出すから」という理由で壁を赤くする博美が抱える底知れぬ闇も伝わってきたのではなかろうか。

 

 

そして勿論、各キャストの演技力も忘れてはならない。

 

阿部寛さんは、今までお馴染みの「加賀恭一郎」という洞察力がありながらも少し可愛げのあるキャラクターを相変わらず演じ切りつつも、母の事件と繋がる手がかりを見せたときの動揺など新たな一面も見せてくれた。

 

松嶋菜々子さんは、本当に加賀刑事が言った通り「やっぱ超綺麗」だったが、輝かしい人生を歩む女優を見事に表現しつつも、どのシーンでも常に哀しみを抱えているのが印象的な演技だった。

 

だが今回特に注目したのは、14歳の浅居博美を演じた桜田ひよりさんだ

決別を悲しんで、父を追いかけて泣き叫ぶ場面が特に印象に残った。

映画が終わったあとでもあのシーンを一番鮮明に覚えている。

私はこの映画を観るまで桜田さんを存じ上げていなかったが、これから注目していきたい。

桜田ひより1st写真集「ひより日和。」 (TOKYO NEWS MOOK)

桜田ひより1st写真集「ひより日和。」 (TOKYO NEWS MOOK)

 

 

 

今作の監督である福澤克雄氏は、本を映像化することのプロだ。

福澤氏は『半沢直樹』や『下町ロケット』、『陸王』などの池井戸潤氏が書いた本のドラマを手がかけたことで有名だ。

 

長年ヒット作のドラマを生み出し続けた彼は、間違いなく「日本人のツボ」を分かっている

何に笑えて、何に泣けて、何に燃えるか。

だからこそ福澤氏は思いっきり「泣ける」映画を巧みな演出と原作の丁寧な解釈を交えて作ることができたのだろう。

 

結論

『新参者』シリーズは、鋭い洞察力が持ち前の加賀恭一郎刑事が、被疑者がつく嘘の理由を見抜いて事件の解決に導くことから、ヒューマンドラマに割とウェイトがかかっている作品だ。

今回は、浅居家と加賀家の親子愛を中心に描くことで、その『新参者』の特徴が大いに生きていたと感じた。

たいてい映画の宣伝文句は信じないが、銘打たれた通り「切なすぎる真実」だったし、「“泣けるミステリー”の最高傑作」だった。

中盤から既に号泣していたし、劇場を出てから半日くらい余韻に浸りまくっていた。

 

日本橋署に居続ける理由も判明し、その事件も解決したのだからこれ以上『新参者』でありつづける必要がない。

そう考えると割と納得のいく完結なのかもしれない。

 

しかし、加賀恭一郎シリーズに閉幕を迎えてほしくないと心底思えてしまうような素敵な一本になってしまった

いつかまた、阿部寛さんが演じる加賀恭一郎が観たいと純粋に思ってしまった。

今作は、間違いなく私の中での今年のベスト5映画に入ることになるだろう。

 

 

祈りの幕が下りる時

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