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【感想】『ブラック・スワン』の白鳥はどのように黒鳥に変身したか

2018年の正月に観た映画の中で特に印象に残った映画がこちら、2010年公開の『ブラック・スワン』だ。

 

ブラック・スワン (字幕版)

 

昨日の晩に観たが、色々と考察の余地があるのではと思い、この記事を書くことにした。

7年前の映画なので割と結構考察し尽されている感じも否めないが、自分の考えを整理するためにもこの記事を書いていきたい。

お付き合いお願いします。

 

『ブラック・スワン』のネタバレを含みます!!

 

 

純粋無垢な「白鳥」

ニナは純粋無垢な少女、つまり、まさに「白鳥」だ。

だからこそ、『白鳥の湖』の監督であるトマは白鳥役なら迷わずニナを選ぶと宣言。

 

トマ「君のイメージは白鳥しかない。美しく、臆病で、繊細… 理想の白鳥だ。」

 

ニナの部屋の壁紙は可愛らしいピンク色で、白いウサギのぬいぐるみをたくさん持っている。

まさに絵に描いたような乙女の部屋だ。

 

また、責任転嫁をする習性があり、その点では精神面での幼さも見えてくる

例えば、トマの前で踊りを披露した際に失敗してしまったことを、途中で部屋に入ってきたリリーのせいにしたり。

本番の第一幕で王子役に持ち上げられるもののニナは幻覚を見たせいで落ちてしまうが、それを王子役のせいにしたり。

 

そして、ニナは性行為には殆ど縁がない処女であることが、トマとの会話のぎこちなさから分かる。

 

エリカの支配

このような (恐らく20代半ば) の成人が無垢な少女のままでいるのは、母親であるエリカが常にニナを支配下に置こうとしていることが大きいと考えられる。

例えば、ニナが服を着替えるのを毎回手伝ったり。

背中をツメで掻く癖を見つけたときはツメを無理やり切ったり。

ニナのプリマ抜擢を祝福するために用意したケーキをニナが断ったときに激情したり。

ニナの部屋にプライバシーがなかったり。

 

ニナが成人女性であるとは思えないほどエリカは支配的な態度をとっている。

エリカも元バレリーナであったため、娘に自身の夢を託し過剰なほどの期待を抱いていることが原因なのだろう。

ニナはずっと母の支配の下で「いい子ちゃん」として暮らすことを強いられていたため、性交渉の経験もない。

というか、そのような経験をすることを恐れていたのではないか。

 

「解き放つこと」

そんな純粋無垢なニナにも、黒い部分が多少あることが分かってくる。

代表的な例としては、ベスの楽屋に侵入してベスの口紅を盗み、プリマの座を得るためにその口紅を塗ってトマを説得しに行く場面がある。

この場面からは、ニナの計算高さも垣間見える。

 

ニナがベスの口紅を塗ってトマを説得しに行った時のシーンがこちら。

トマ「4年間、君を見てきた。踊りは正確そのものだが、激しい感情を表せない。決して。なぜ、自分を抑える?」

ニナ「完璧に踊るため。」

(中略)

トマ「抑えるだけでは完璧さに達しない。解き放つことも大切だ。自分自身を超えるんだ。」

そしてトマは強引にニナの唇を奪いキスするものの、ニナは彼の唇を噛む。

そんなニナの行動にトマは驚くが、その行動がニナなりの「誘惑」であると勘違いし、トマはニナをプリマに抜擢する。

 

トマ「白鳥は問題ない。君の課題は“悪の分身”、黒鳥への変身だ。昨日、その片鱗を見た。」

 

黒鳥への変身を遂げるためには、ニナはずっと抑え込んでいた黒い部分を解き放つ必要がある

トマは、黒鳥として踊り続けていた元プリマのベスをこのように形容している。

トマ「ベスは心の奥に深い衝動を抱えている。だから踊りも面白い。危険性に満ち、しかも完璧だ。おまけに破壊的。」

 

ニナが人生を愉しむべく、トマはニナに家で自慰行為をするように命じる。

ニナが性行為の喜びに目覚めて、黒い部分を引き出すためにそのような指示を出したのではなかろうか。

 

しかし、ニナはなかなか解き放つことができないため、黒鳥の踊りが上手くいかない。

トマ「彼女とヤリたいか?“ノー”だ。だれも望まない。ニナ、不感症の踊りだよ。」

 

更には、トマはニナと二人っきりで特訓をしてニナを誘惑しようとした際に、ニナはそんなトムの誘惑に応えてしまう。

トマ「私が君を誘惑した。これでは逆さまだよ。」

 

「黒鳥」のリリー

ニナとは対極的に、リリーは「黒鳥」であると言ってもよいのではないだろうか。

リリーは大人の遊びに興じ、異性の扱いに慣れている印象がある。

 

そんなリリーだからこそ、狡猾で官能的な黒鳥の動きができる。

トマ「あの動きを見ろ。予測不可能で、官能的だ。演技ではない。」

 

そして、そんなリリーを通してニナは次第に「大人の愉しみ」に目覚める。

リリーに勧められてタバコを一緒に吸ったり。

一緒にクラブへ行き、男たちと踊り明かしたり。

薬に手を出したり。

その勢いでクラブの男と一夜を過ごしたり。

 

しかし、家に居ておくように説得する母を押し切ってリリーと飲みに行くものの、家に帰ってくると二人は口論になる。

次の日には、ニナは母に家を出ていくとまで告げてしまう。

リリーとの接触は黒い部分の受け入れに繋がり、純粋無垢な娘を望む母エリカとの関係性は拗れてしまう。

 

リリーとの経験を通して、ニナは晴れて母の束縛から脱却して、自身の黒鳥の一面を解放することに成功したのではなかろうか。

 

白鳥の破滅

『白鳥の湖』のプリマに抜擢されたニナは、役を演じるにあたって「自分」との向き合いを強いられる。

 

足の痛みや、背中の痣などに日々悩まされる。

(ツメをめくる痛々しいシーンは何度見てもトラウマですよね…)

バレエ団内部の嫉妬による人間関係の崩壊。

母エリカとの関係性。

そして主役として一人二役をこなさないといけないという責任感。

 

その重圧に耐えることができず、ニナは幻覚を見始め、自己の破滅へと向かっていく

それを描写をする上で今作中で多用されていたのが、「鏡」である。

例えば、鏡の向こうのニナの像がニナとは異なる動きをする、という一見ホラーな描写は、ニナの自己喪失を表現している。

 

また、ニナは自身の黒い部分をリリーに投影し、それが幻覚となり現れる。

クラブから帰ってきた際にニナがリリーとの性行為を幻覚するシーンは、黒鳥を受け入れたことを意味するのではなかろうか。

 

しかし、その影響で自分の役がリリーによって奪われようとしているのだと妄想し始める。

リリーとトマが舞台裏で性行為をしている幻覚を見てしまったり。

リリーが本番の最中に楽屋に入ってきて、黒鳥を代わりに踊る、と言ってくる幻覚を見てしまったり。

 

ニナは「白鳥」から「黒鳥」への急速な変化を遂げようとし、従来の純粋無垢な「白鳥」が破滅へと向かう中で、自分自身やその周囲が理解できなくなっていまう

そしてその結果、現実と虚像の境界線が分からなくなってしまったために幻覚を見始めたのではないか。

 

最終的にニナは、リリーと黒鳥役をめぐって口論になってしまい割れた鏡の破片でリリーを刺す。

だが、その時のリリーは幻覚で、ニナは自分自身を刺していたことが、白鳥のドレスを身にまとって舞台上で踊っている際に発覚する。

つまり、鏡の中にいる自分を破壊したのだ。

これは、ニナが純粋無垢な自分自身にとどめを刺して、黒鳥として生まれ変わったことを意味するのではなかろうか。

だから、第三幕で黒鳥の姿で踊った際もニナは「完璧」に踊れたのだ。

 

第四幕で白鳥の衣装で再び登場し、最後に倒れこんでパフォーマンスが終わる。

大盛況で『白鳥の湖』は幕を閉じるが、ニナの腹から多量に出血しているのが発覚。

トマ「一体、何をしたんだ?」

ニナ「感じたわ。」

トマ「何?」

ニナ「完璧よ。完璧だったわ。」

そして画面は白へとフェイドアウトして、映画は終わる。

非常に意味深な終わり方ではあるが、ニナの白い (純粋無垢な) 部分の死を意味するのではないかと考察する。

 

トマ「君の道をふさぐ者は、君自身だ。邪魔者を取り除け。自分を解き放て。」

結局、白鳥の破滅、つまり、純粋さと引き換えにニナは黒鳥の魅力を手に入れ、『白鳥の湖』のプリマとして演じ切ることに成功する

 

これは、ある一つの芸術を極める為に母親の束縛から抜け出し、過去の自分を捨てることにより栄光を掴んだ、悲劇的でありながらもハッピーエンドの話なのではないか。

完全に個々人の捉え方によって見方が変わってくる、非常に面白い作りの作品になっている。

 

総括

流石ナタリー・ポートマンさん、今作でアカデミー賞の主演女優賞を受賞されだだけあって、ニナが自分自身と向き合う上での葛藤と重圧を抱え込む姿が痛いほど伝わってきた。

そして、幻覚を見るに至るまでの心情描写が非常に丁寧だったことを考えると、心理スリラーとしても非常に優秀な出来だったのではなかろうか。

 

新年早々観る映画としては非常にハードな作品だったのは否めないが、芸術に向き合う苦痛と完璧を追い求めるパフォーマーの真っ直ぐな姿勢が味わえる良い作品に出会えたことを嬉しく思う。

ダーレン・アロノフスキー監督の作品がもっと観たくなってきた。

 

 

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